今回は前回の続きではないのですが、前回取り上げた内容の一部を少し深堀りしてみたいと思います。
前回はSAFが既存の設備を変更せずそのまま利用できる、一般的な燃料とほとんど性質の変わらないドロップイン燃料として開発されてきたことなどを取り上げましたが、その中で100%バイオ由来のニートSAFと実際に燃焼させる化石燃料と混合した燃料では品質が異なることも記載いたしました。その中でも芳香族という成分とその影響、取り扱いについてお伝えいたします。
芳香族は炭化水素の一種で、ベンゼン環という亀の甲羅のような構造を持つ化合物です。芳香族の割合は一般の航空燃料では8~25%の範囲にあることが求められる一方で、ニートSAFのAnnex2では0.5%以下にすることが求められます。芳香族は燃料として燃焼する際にはすすが出やすいなどあまり良い影響を及ぼさないのですが、機体の燃料移送部の接続部分に使われるパーツを膨潤させ気密性を向上させる機能を持つため、先述の範囲で含まれることが航空燃料に求められています。
このように航空燃料には一定量の芳香族が必要であるにもかかわらずニートSAFだとほとんど含まれないことが求められるのは不思議です。Annex2のニートSAFは最大50%まで石油由来の航空燃料と混合できるのですが、多く混合した際に混合先の石油由来の燃料の芳香族の割合が少なかった場合には、混合後の芳香族の割合が下限値の8%を下回ってしまう事態もあり得るように思います。Annex2の規格が作られた際に、油脂の水素化において芳香族はほとんど発生しないとされたのならば、通常の燃料と同じように8%以上含まれるようにしろという規定にならなかったのはわかるのですが、0.5%以下に規制する項目を設けるメリットはないように思います。そして実際のところ製造時の反応条件次第で芳香族は発生し、これを解決するためには水素化の強度を上げシクロパラフィンに変換するなどの対応が必要でむしろ手間になります。本来あっても差支えないどころかむしろ必要なものを無くすための手間というのは不毛に思えます。
最初に作られたと考えられるAnnex1でも芳香族の基準が同じである辺りそれに引っ張られたのか、それとも何らかの意図があったのか、この不合理に思える既定の根拠を推測することは難しく、単なる無駄な参入障壁ではないかと邪推してしまいます。そうだとすれば本件もまた、先行してルールを設定することが産業でも大事だという、広く知られるようになった知見の一例と言えるのかもしれません。