前回から続く内容になります。
MOILが目指すSAFは植物油脂を水素化して分子から酸素を除くなどの変化を起こして製造するもので、これにより石油と同じ炭化水素からなる燃料ができます。そもそもSAF自体が、まだSAFという名称がなくバイオ航空燃料と呼ばれていたころから、ドロップイン燃料、つまり既存の設備を変更せずに現行の燃料とそのまま混ぜて使用できる燃料を目指して規格などが整備されてきました。石油由来燃料と混合しない100%のSAF(ニートSAFと呼ばれています)の品質規格と一般の航空燃料の規格で求められる値が異なることもありますが(例えば芳香族という物質の割合はニートSAFのAnnex2では0.5%以下にすることが求められますが、一般の航空燃料では8~25%の範囲にあることが求められます)、混合時の品質規格には一般の航空燃料と同じ規格が用いられており、結果としてSAFを混合した燃料であっても既存の機器をそのまま用いて使用することができます。
SAFに使われる留分(灯油に近い)とガソリンに相当する留分は異なりますが、植物油の水素化によるSAF製造においてはガソリン留分など他の留分も同時に発生するため、SAF以外のバイオ燃料も同時に製造されることになります。こうしてできるバイオガソリンは新車だけでなく古い車でも高い割合で使用可能なバイオ燃料として利用できる可能性があります。品質にかかわる反応条件を調節する必要はありますが、元々SAFの製造に用いる水素化反応はガソリンのオクタン価を向上させハイオクガソリンを作る反応と近いため、この点を見るとむしろ高品質なガソリンとなりそうです。
また、前回記事に記載の通り3%までは差支えないため、特に意識されることはありませんが、現在もエネルギー供給構造高度化法に基づき、50万kL/年を目標にバイオエタノールがガソリンに混合して利用されています。しかしこのバイオエタノールは国内では一切作られておらず、脱炭素政策のために海外から全量を輸入している状況にあります。MOILは国産原料によるSAF供給を目指しており、その実現の暁には車向けかつより使いやすいバイオガソリンも製造されていく見込みは大きく、これに加えバイオディーゼルなどもより使いやすい形で供給していくことで広い分野の脱炭素に貢献できる可能性が大いにあります。特にバイオディーゼルはSAFと同様に馬力が必要で重量のある蓄電池では代替しにくい領域、例えばトラックでの輸送などで活躍しうるため、カーボンニュートラルを目指すにあたって重要な地位を占めうるのではないかと考えています。