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2024年11月18日

規格ASTM D7466によって定められたSAF製造法

本記事は前回の記事で触れました、SAFの国際規格ASTM D7566の解説になります。SAFに求められる品質はASTM D7566という規格で定められています。この規格の興味深い特徴として、引火しやすさや不純物の量のような燃料としての品質だけでなく、製造に用いる原料、加工法も定められていることが挙げられます。ASTM D7566にはAnnex 1~8の付属書が含まれており、これらの付属書それぞれで原料と加工法の組み合わせが規定されています。これらの中には内容が近いもの、産業化に向けた動きが見えにくいものもありますが、特に注目を集めているのはAnnex 1, 2, 5の3つです。

Annex 1は農業廃棄物や都市ごみなどの有機物全般を原料として、まず高温で一酸化炭素と水素に変え(この混合気体は合成ガスと呼ばれています)、これをFT合成という手法でSAFにする規格です。この手法は原料の幅が非常に広いため潜在的な利用可能原料量が多いことが長所として挙げられますが、合成ガス中の不純物への対応、反応で生じる炭化水素の分子量の幅が広くSAFを狙って製造することが難しいなどの課題があります。将来的には大半のSAFがこの手法で製造されると予測されていましたが、現在この手法での商業化は行われておらず、今後期待される手法として報道などで取りざたされる頻度も後述のAnnex 5が多くなってきた印象です。

Annex 2は動植物由来の油脂(トリグリセリド、脂肪酸)を水素化することで、分子中の酸素を取り除きつつ分子構造を分岐させてSAFを製造する規格で、前回記事で取り上げたMOILで採用している手法になります。この手法は技術的には石油化学でいう硫黄を取り除く脱硫(硫黄と酸素は同じ16族元素ですね)、ガソリンのオクタン価を向上させる処理に近く、石油化学系企業が自らの技術、設備を流用し大規模に生産しているため、前回の記事にも記載いたしました通り現在唯一大規模に商業化された手法になります。課題も先述の通り、主に原料として使用されている廃食用油の量が限られており、これを用いて生産可能な量がSAF需要と比べて全く足りないことです。また、Annex 7も原料の油脂の種類が異なる(生物由来の油脂ですが炭化水素)ものの、水素化によって燃料化する点では共通しています。

Annex 5は生物由来の糖や紙ごみなどを発酵させるなどして製造したエタノール同士を合成しSAFにする手法で、バイオエタノールの生産が既に広く行われていることなどから現在特に注目を集めている手法です。エタノールにできる物質なら利用可能ということで原料の多様性も高く、排気ガスを発酵させる他、大気中のCO₂を回収し利用する試みも行われています。原料の量を気にする必要がない反面、こういった有機物を原料としない方法はエネルギーを別のところから持ってくる必要があり、とりわけ大気中の濃度が薄いCO₂の回収には多くのエネルギーが必要になります。また、Annex 8もほぼ同様の規格ですが、できる燃料の成分に違いがあります。

SAFには複数の原料と製造法の組み合わせがあり、それぞれに長所がある一方で課題を抱えています。これらに加え今後も新たなAnnexが追加されていくと考えられます。